三島玲央と本庄絆のあいだ -『君のクイズ』を読んで- NEW

注:ネタバレにご注意ください。本書を読む前にこの記事を読むことはお勧めしません。

「彼はもう、僕の中で存在しない。」

どうして、三島玲央は本庄絆を自分の中から追い出したのだろうか。

「僕だって、本庄絆のファンと変わらないかもしれない。彼がSNSで沈黙しているのは、彼なりに反省しているからだと思っていた。だからこそ、彼のことを理解しようとしたし、最終問題がやらせではなかった可能性を調べた。でもそれは、僕が勝手に作りあげた『本庄絆』という偶像にすぎなかった。」

「ゼロ文字押し」をきっかけに、「本庄絆」がどういう人間かを三島玲央は自分なりに調べ始めた。
三島玲央は本庄絆の映像を全部見た。
「本庄絆は正解でも誤答でもほとんど表情を変えない。」
本庄絆がクイズに答える時の表情まで細かく観察した。
本庄絆のことを本気で理解しようとした。

それなのに三島玲央は最終的に気づく、自分が本庄絆を理解しようとしていたわけじゃない。
自分が期待した『本庄絆』を見つけたかっただけだったと。

「僕は、僕の信じるクイズをした。正確に、論理的に正解を導きだすクイズをした。」
「本庄絆のクイズは、『クイズで生きていく』『クイズで金を稼いでいく』というところに目標が置かれていた。」
三島玲央は本庄絆と自分同じクイズをしても、全く違うものを見ていることに気づいた。

そして、同じ景色を見ることを拒絶した。

「本庄は他人から求められた役割を完璧に演じる男だ」と本編に書かれている。
しかし、本庄は、「頭でっかちな解答で他の参加者を笑わせる」というポジションから、「世界を頭の中に保存した男」という肩書きを手に入れるために、それまでに足りなかったクイズの技術を取得し、ボタンの押し方や駆け引きの仕方も洗練させ、「どんなクイズにも正解する超人」というポジションを確立した。

「どんなクイズにも正解する超人」は本庄絆が望んだポジションだったのか、本編では明確にされていない。しかし、本庄絆は決して求められた役割を演じるだけの男ではない。努力して自分が追い求める理想の「本庄絆」を追い求め続けている男なのだと思う。

そしてさらに本庄絆が望む理想な自分に近づくために、YouTuberになったのだと思う。わたしは、本庄絆は、お金を稼ぐためでも、有名になるためにでもクイズを利用しているわけではないと思っている。本庄絆には理想な自分像がある、だから、競技クイズプレイヤーが何年、何十年もかけて覚えてきた知識と培ってきた技術を、数ヶ月で会得しつつあったのだと思。本当に追い求めるものがなく、好きでなければいくら頭脳明晰だけではなしえないと思うから。(注:これはわたしが本書を読んで勝手に作り上げた「本庄絆」の偶像である。)

そして、わたしは、本庄絆が最後に三島玲央に会ったのは、三島玲央なら自分を理解してくれると期待したのかもしれないと思っている。そして会って気づいていた、三島玲央も自分のファンと変わらない、自分の偶像を作り上げていることを。そして、本庄絆のクイズは『クイズで生きていく』『クイズで金稼いでいく』という別の偶像を三島の中に埋め込み、三島玲央を拒絶した。

三島玲央は自分から本庄絆を追い出したと思っているが、本当は本庄絆に仕向けられたのかもしれない。

本庄絆は失望したのではないのだろうか、三島玲央が自分の理解者になってくれるのではないだろうかと期待し、会いに行ったのに、三島玲央も他の人と同じだった…。本庄はそんな三島に失望し、自分に見えている景色を言葉にすることを諦めた。

わたしは時々自分は多重人格だと感じることがある。
明らかに相手に合わせて自分のキャラを作り上げそこから抜け出せなくなることがある。
特に、あんまり深く関わりのない相手との会話に「間」ができる時、どう反応すれば相手にプレッシャーをかけず、嫌な思いをさせない、できれば楽しんでもらえるのかと探りを入れ始める。
その相手と時間が積み上げていくうちに、気がつけばいつの間にかその人用のキャラが既にその人に会えば自然と発動するところまで形成されている。
自分が作り上げたキャラなのに「本当のわたしは違うのに…」と思う。
そして相手がそのわたしのキャラについて何かを言うと「わたしのことを何もわかってない」と思う。

本当はわたしが見せていなかったからなのに…
本当はわたしは自分で誰かが作ったわたしの偶像の中に隠れただけなのに…

本当の自分をわかって欲しいなら、伝えればいいのに…
何も伝えないのに、伝わらないと勝手に相手に失望する…

どうしてそんなことしてしまうのか。
伝えることは怖いことだからではないんでしょうか。
嘘で、酷い人間に見せて嫌われることよりも、本当の自分を知ってもらうことのほうが怖いと感じるのはわたしだけだろうか。

本庄絆も本当の自分を三島玲央に晒すことを躊躇したのではないだろうか。
理解されることを期待した、しかしそうではなかった、期待されていたのは本当ではない「本庄絆」。
その状況で、じゃあ、本物の「本庄絆」を晒し出そうか…とは、想像以上に怖いことではないんだろうか…
それなら、嘘の「酷い」本庄絆の偶像を作り上げて、嫌われたほうがマシだと本庄絆は思ったのではないんだろうか…。

『君のクイズ』
小川 哲 著
朝日新聞出版
2022年10月発売
ISBN:9784022518378

『君のクイズ』公式ページ(朝日新聞出版)
https://publications.asahi.com/feature/yourquiz/
『君のクイズ』書籍ページ(朝日新聞出版)
https://publications.asahi.com/product/23804.html

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次